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リプロ・ニュース No.1

RHRリテラシー研究所 2024.6.1発行

  

────◇◆◇コンテンツ◇◆◇─────

※読みたいセクションに飛ぶこともできます

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 1.「リプロ・ニュース」発行のごあいさつ◇◆◇────

 

 RHRリテラシー研究所は、「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利:略RHR)」の知識と理解(リテラシー)を広める活動を行っている任意団体です。

 

 RHRは元々女性の健康運動から登場してきた概念で、国際社会では1990年代から広く知られるようになりました。最近では、「セクシュアル・ヘルス&ライツ」という概念も加えてSRHRと表記されることもよくありますが、私たちのグループでは「リプロダクション(妊娠や出産)」にまつわる健康と権利に特に注目しています。

 

RHRは、現在では「個人の人権」の重要な一部であると認識され、国にこの人権を保障する義務が課されています。ところが、日本ではRHRに関する理論的な裏付けが知られておらず、国際社会における位置づけや定義が広まることもないままに、人権としてのRHRは放置されてきました。そればかりか、むしろ政府は少子化を理由に個人のRHRを侵害しつづけてきたのです。

 

 その結果、日本では、本来、国が個人に対して保障すべきRHR関連のケア(避妊や中絶のみならず安全で尊厳が守られアクセスしやすい妊娠・出産)の情報と手段がほとんど提供されていません。旧優生保護法によって当人の意思に添わない堕胎や不妊手術が長年強制的に行われてきた国家的な暴力についてさえ謝罪や補償が行われていない一方で、旧態依然たる刑法堕胎罪と母体保護法によって個人が「産むか産まないかを自分で決定する自由」が侵害され、すべての人に提供されるべき性教育や緊急避妊薬もなかなか得られない状況が長きにわたって続いています。

 

 そこで、このたび私たちは継続的に新しい情報を提供するために、メルマガを発行することにしました。今回はこれまでつながりのあった皆様に一斉配信しております。次号からは希望者にメールで配信しますので、ご希望の方は rhr.lit.lab@gmail.com までお知らせください。また、ご紹介いただける方がいらしたらぜひお知らせください。今後とも「リプロ・ニュース」をどうぞよろしくお願い致します。

 

 

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 2. 経口中絶薬発売後1年を過ぎて◇◆◇────

 

 経口中絶薬メフィーゴパックは2023年4月28日に日本国内で承認され、5月16日に発売されて、すでに1年が過ぎました。ラインファーマ株式会社のサイトに登録されている「経口中絶薬について相談できる病院・クリニック」のリストに掲載されている医療機関は5月下旬の段階で149か所しかなく、母体保護法指定医師のいる医療機関4176か所(2020年)の4%にも届きません。47都道府県のうちおよそ4分の1にあたる11県には、取扱い医療機関が一つもありません。いったん登録していながらリストから消えた医療機関も、確認できただけで10か所あります。

 

 取扱い機関が少ない理由の一つは、日本産婦人科医会が「当面のあいだ」入院可能な施設をもつ医療機関の母体保護法指定医しか処方できないことに決めたためです。医師の監視下において服用することを義務付けているのはまれであり、不必要にアクセスを妨げる結果になっています。

 

 日本における薬による中絶の料金が海外に比べてかなり高額であることも、普及を妨げている一因です。ラインファーマ社のリストに掲載された医療機関を調べたところ10万円から16万5000円と法外な料金で、外科的中絶よりも高く設定しているところもあります。薬だけで終わらない場合には、外科的処置のために4万~5万円の追加料金がかかることもあります。一方、海外では薬による内科的中絶はせいぜい数万円程度で、通常、外科的中絶よりも格段に安く設定されています。

 

 さらに、日本のメフィーゴパック1個には、ミフェプリストン1錠、ミソプロストール1回分の4錠しか入っていません。そのために、世界保健機関(WHO)が推奨しているように、1回の服用で完了しない場合にミソプロストールを3時間おきに4錠ずつ追加服用することができません。2022年にWHOが発行した『アボーションケアガイドライン』に従えば、中絶完了まで何度でも追加服用が可能であるため、世界では薬のみによる中絶完了は限りなく100%に近づいています。ところが日本では「24時間以内」に排出が終わらない場合は「失敗」とみなされているため、薬のみの成功率は93%と低く、外科手術が追加される人の割合が高くなっています。

 

 しかも、日本ではミソプロストールの追加服用が不可能です。海外では、一回の服用で中絶が完了しない場合、ミソプロストールを成分とするサイトテックという胃潰瘍の薬が使われています。厚生労働省は、日本にもサイトテックが存在していることを認めながら、この薬は「妊婦には禁忌なので使えない」としています。胃潰瘍の薬として使う場合、妊娠している患者が流産しては困るので禁忌にしているというのは理解できます。しかし、中絶薬として用いる場合、その作用は「効用」に転じるにも関わらず、厚労省は「妊婦には禁忌」の姿勢を固辞しています。

 

 英国ボーンマス大学のサム・ローランズ教授によると、ミソプロストールの単剤を中絶薬としてあるいは流産治療薬として使うことについて、治験を行って承認している国はないそうです。ミソプロストールは非常に安価な薬であるため、製薬会社はわざわざコストと手間をかけて承認申請をしないのです。一方で、WHOを含め世界中の専門家によってミソプロストールが中絶に有効であることはすでに科学的エビデンスがあるため、医師の判断で適応外使用されているというのです。

 

 「中絶薬」は稽留流産流産の治療にも使えますが、日本ではメフィーゴパックを流産に使うことも、治験が行われていないことを理由に認められていません。フランスで1988年に発売されてからすでに36年が経ち、世界96か国で安全に使用されており、WHOが流産にも使用することを奨励しているにも関わらず、日本では杓子定規に治験を必須としているために国際的に標準な医療を受けられないのです。これでは、日本人のリプロダクティブ・ヘルス&ライツ(RHR)は保障されていないことになります。

 

 RHR軽視は、緊急避妊薬の薬局販売を認めないことにも表れています。一方、男性の勃起不全治療薬バイアグラについては、国内治験を全く行うことなく半年でスピード承認したのですから、女性のみが使う薬と男性のみが使う薬の取扱いがあまりにも違うのは性差別的だとも言えます。

 

 また海外では、中絶薬の最大のメリットは、プライバシーの守られる空間で中絶を終えられることだと言われています。少なくとも、第二薬のミソプロストールだけでも、自宅で服用できるようにすべきです。

 

 5月16日、メフィーゴパック発売1周年を迎えた際に讀賣新聞が報じたところによれば、日本産婦人科医会常務理事の石谷健・日本鋼管病院婦人科部長は今年の日本産科婦人科学会で、この薬について「大きなトラブルの報告はなかった。必要な女性が使いやすい体制に向けて議論してゆくべきではないか」と発言しています。今も日々数百人の女性が中絶を受けており、一刻も早く議論を進めていくべきです。

 

 WHOの必須医薬品にも指定されている経口中絶薬を、より「使いやすい」薬にしていくためには、ガラパゴス化した日本の中絶医療を見直し、中絶薬の使用規制を緩和しなければなりません。また、健康保険の適用などによって「あたりまえのケア」として提供していくのと同時に、中絶をめぐるスティグマを払しょくしていく必要があります。

 

 21世紀に入って、アイルランドやアルゼンチンなど、宗教上の理由で中絶が厳禁されてきた国々でも中絶が合法化されるようになりました。それは、中絶薬の導入によって「中絶」に対する見方が変わったことが理由の一端だと考えられています。世界では「中絶薬」が使われるようになったことで中絶自体が早期化され、「罪悪視」も弱まっているのです。

 

 中絶は、意図せぬ妊娠をする可能性のあるすべての人に、アクセスよく提供されるべき医療ケアです。それが実現されていない社会は、妊娠しうる人々を差別している公正でない社会であるという認識を広めていく必要があります。



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 3. 「私の体は母体じゃない」訴訟を提起◇◆◇────

 

 RHRリテラシー研究所のスタッフの一員でもあるかざねさんが、「母体保護法」の不公正を訴える訴訟を提起しました。以下、当人からみなさまにご報告いたします。

 

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みなさん、こんにちは🌙

リテ研スタッフのかざねと申します🙇🏻‍♀️

今日は、 私が原告の1人として関わっている

「私の体は母体じゃない」訴訟 について紹介させてください🙇‍♀️

私は、 自分の生殖能力に強い違和感や嫌悪感があり、 10代の頃から不妊手術を受けることを望んでいましたが、 日本は母体保護法のもと、 国民が自由意思で不妊手術を受けることを禁止しているため、 海外の病院で卵管の摘出手術を受けました。

日本の不妊手術の原則禁止や、 本人の意思で不妊手術を受けることへの罰則(1年以下の懲役、 50万円以下の罰金)

妊娠や分娩が母体の生命に危険を及ぼすおそれがある等の理由で例外的に不妊手術を受ける場合も

・複数人子どもを産んでいること

・配偶者に同意を得ること を課していること

について自己決定権や幸福追求権の侵害として、今年2月、不妊手術(卵管結紮や卵管全摘等)を望む他の4人と共に、国を提訴しました。

原告である私たちの想いや訴訟に至った経緯など、 Call4というサイトに記載しています。

 

少しでも興味がある方は、 読んでいただけると大変嬉しいです🙇🏻‍♀️

寄付や応援のコメントも大歓迎です🙆🏻 💕

訴訟資料→ 地裁→ 証拠→ 本人側と進んでいただくと、 私たち原告の陳述書も読むことができます🙆🏻

私たちがどのような気持ちで生きてきて、 どのような想いで訴訟に至ったのか自分の言葉で書きました。 目を通していただけるととても嬉しいです😭

原告を応援するために、ぜひ裁判の傍聴に足を運んでください。

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 第1回 公判

 6/12 午前 11:00~11:30 @東京地裁・第803号法廷

 最新情報は上記call4ウェブサイトに加えて、

 Instagram @ledge_law または @call4_jp

 Twitter @LEDGE_law または @CALL4_Jp

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関連記事:

「子どもを産まない権利も認めて」戦時下から続く、原則禁止の不妊手術要件は違憲と提訴 (東京新聞 )

母体保護法の不妊手術要件「違憲」と提訴 「自己決定権の一つ」主張 (朝日新聞 有料記事)

 

 

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 4. 『ジェーンの物語 伝説のフェミニスト中絶サービス地下組織』◇◆◇────


 ローラ・カプラン著 塚原久美訳 書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)より刊行。

 

 中絶が違法だった半世紀前の米国シカゴ。

 女たちが女たちを助けようと立ち上がった違法の地下組織〈ジェーン〉。安全な人工妊娠中絶を求め駆け込んだ女性たちの数は推定1万1000人と言われる。1960年代末から、1973年に最初の合法的な中絶クリニックが開設されるまで米シカゴで活動した〈ジェーン〉のメンバーたちは、違法の堕胎師たちがふっかけてくる高額な費用を払えない女たちのために、自分たちで中絶の技術を学び、推定1万1000人の女性に安全な人工妊娠中絶を提供した。激動の歴史を赤裸々に描いた衝撃的なこのノンフィクションは、リプロの権利が行き詰っている今の日本でこそ読むべき一冊だろう。

 

 

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 5.北京会議+30年について◇◆◇────

 

 内閣府男女共同参画局が、来年の「北京+30(第四回世界女性会議=通称「北京会議」から30周年目の会議)」に向けて意見を募集していたのに対し、RHRリテラシー研究所も以下の意見を出しました。「固定的な性別役割分業の見直し」「リプロダクティブ・ヘルスケアの導入」「政策立案者に必要な専門教育を」の3点を提言しました。詳しくは下記でご覧ください。

 

 

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 6.ボランティア・スタッフ募集中!◇◆◇────

 

 RHRリテラシー研究所では、随時ボランティア・スタッフを募集しています!

 リプロに関する情報提供やイベント開催などの活動をしています。関心のある方、意欲のある方、何かしてみたいと思っている方、どうかお力を貸してください。

 ホームページは:https://www.rhr-literacy-lab.net/

 

 

────◇◆◇編集後記◇◆◇────

 インターネットを「経口中絶薬」で検索しても、出てくるのは2023年の記事ばかり……今年に入ってからは、探してもほとんどニュースが見当たらず、世間の関心の薄れは明らかです。しかし、「承認されたのだから、徐々に広まっていくだろう」と考えていては、1999年に国連加盟国で最後に承認されたものの、今でも避妊実行者の3%程度しか使っていない経口中絶ピルと同じ運命をたどりかねません。それでは、いつまでたっても「リプロ後進国」の汚名を返上できないばかりか、「人権後進国」のレッテルを貼られることにもなりかねません。

 

 日本では中絶や緊急避妊、避妊ピルもすべて高額で自己負担ですが、「お産」の金額も世界一高額です。日本の分娩費は、日本に次いで世界で2番目に高いアメリカの分娩費の6倍以上なのです。基本的に「女性」しか必要としない医療について、「皆保険」の保障対象に含めないという政府の方針そのものが、性差別的であると認識する必要があります。

 

 産んでも産まなくても高額で、当事者ばかりを苦しめる日本のリプロの医療や法制度。これを抜本的に見なおしていくために、まずは知識をつけていきませんか。そのために、これからも情報提供を続けていきます。次号からはメール配信も予定しております。受信を希望される方は rhr.lit.lab@gmail.com に「リプロ・ニュース受信希望」と書いてお申込みください。(K)




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