RHRリテラシー研究所 2024.11.3発行
────◇◆◇コンテンツ◇◆◇─────
1. 国連女性差別撤廃委員会の第9回日本審査の最終見解
2. リテ研から政府に要望書を提出
3. オンラインイベント「9月28日は国際セーフアボーションデー」の報告
4. 中絶薬の適正な使用に関して医師会から薬事審議会に進言
5. 令和5年度の中絶実態調査を見直す
6. 「わたしの体は母体じゃない」訴訟 次回公判は1月29日
7.ボランティア募集中
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1. 国連女性差別撤廃委員会の第9回日本審査の最終見解 ◇◆◇────
国際連合(国連)の女性差別撤廃条約の締約国は、定期的に女性差別撤廃委員会(条約委員会)の審査を受けることになっています。今年は通算9回目の日本の審査が行われ、10月29日に国連女性差別撤廃員会は日本政府に対する勧告を含む最終見解を示しました。
最終見解の「健康(Health)」の項では、緊急避妊を含む避妊、中絶、任意の不妊治療などリプロダクティブ・ヘルスについて、次のような勧告を発しました。
〇すべての女性と女児に、緊急避妊を含む手頃な価格の現代的避妊法への十分なアクセスを提供すること。〇すべての中絶を非犯罪化し、配偶者同意要件をなくすために法改正すると共に、女性と思春期の女児が安全な中絶と中絶後のサービスを十分に利用できるようにし、リプロの権利に関する自由な選択ができるようにするために、女性の権利と平等、経済的・身体的自律性を完全に実現すること。〇任意の不妊手術について、配偶者同意要件をなくすことetc...
とても踏み込んだ内容でした。今回、民間団体からのカウンターレポートは61を数えました。リテ研もカウンターレポートを提出しましたが、初めてのことで手違いがあり、提出期限を超えたLate submission扱いになりましたが、受け付けてもらえました。以下のページの"CEDAW"⇒”IX”をクリックするとすべての文書の一覧が開きます。最終見解(Concluding Observation)もこのリストに並んでいます。
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2. リテ研から政府に要望書を提出 ◇◆◇────
RHRリテラシー研究所(通称、リテ研)は、11月3日に上述の条約委員会の勧告に基づいた法改正を求める要望書を法務省、厚生労働省、子ども家庭庁等に宛てて提出しました。
要望書はホームページで公開しています。(https://www.rhr-literacy-lab.net/)
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3. オンラインイベント「9月28日は国際セーフアボーションデー」の報告 ◇◆◇────
9月28日土曜日にオンラインイベントを行いました。中絶問題に関する発表者はリテ研スタッフの横井春奈、ゾウ イリン、塚原久美の3名で、それぞれノルウェーの中絶事情、中国の中絶事情、日本の中絶薬に関するアップデートと急きょ不参加となったスタッフが担当予定だったブラジルの中絶事情について少し報告しました。その後、リテ研の梶谷風音が原告となっている「わたしの体は母体じゃない」訴訟の報告がありました。
当日の動画はリテ研公式Youtubeに掲載していますので、見落とした方はぜひご覧になってください。
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4. 中絶薬の適正な使用に関して医師会から薬事審議会に進言 ◇◆◇────
公益社団法人日本医師会の松本吉郎会長から薬事審議会の奥田晴宏審議会長に宛てた「経口中絶薬の使用を適切かつ安全に進めるために ~無床施設への限定解除について~」と題した9月25日付の文書が厚労省のサイトで公開されています。
この文書は、第一部会が経口中絶薬メフィーゴパックの一部無床診療所での使用及び自宅での母体管理を了承したにも関わらず、公益社団法人日本産婦人科医会から「適正な運用を進めるために早急に対応すべき事項」が提案されたことを報告し、メフィーゴパックの適正使用を確実に進めていくために、以下の事項を具体的に検討する必要があると進言する内容です。
(1) 講習受講の義務化 無床診療所において、経口中絶薬を用いた中絶診療のみ実施し、外科的処置を一切行わない診療所が生じることがないよう、関係学会による講習等の受講を義務化する。
(2) 流通管理体制等のデジタル化 現時点では普及の地域格差が著明であり、都道府県医師会の事務手続の負担における格差が大きく、症例数の多い都市部の医師会における事務作業は逼迫状態にある。報告・突合体制の効率化を図るため、流通等の管理プロセスのシステム構築(デジタル化)を行う。
(3) 安全性確保のための資材 無床施設へ拡大することを想定し、有害事象が発生し、連携先の医療機関等に緊急搬送された場合の診療情報提供書の標準様式など、安全性確保のための資材を作成し、円滑な情報共有ができる連携体制を構築する。
(4) 国民への正しい情報提供 本剤を適正に使用してもらうために、本剤の母体への影響や母体管理などについて、更なる国民への正しい情報提供及び啓発を実施する。
この文書は審議差し戻しの資料となるものと考えられますが、(1)の講習については関係学会が行うとしながらも、(2)のデジタル化、(3)の資材作成、(4)の情報提供については実施主体が不明確です。各々の事項を具体化するために予算を付け、作業を行い、その結果を審議にかけるとなると、無床診療所への拡大は翌々年度になる可能性があります。動向を注視していく必要がありそうです。
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5. 令和5年度の中絶実態調査を見直す ◇◆◇────
こども家庭庁によって行われた「経口妊娠中絶薬における人工妊娠中絶の実態調査及び適切な情報提供等に関する研究」において、中絶薬の安全性が確認されたことはすでに報告していますが、今回はこの研究で明らかになった合併症率等に目を向けてみます。
この研究では、「令和5年5月~10月に施行した人工妊娠中絶の種類と件数、合併症、搬送や時間外受診が必要であった症例の数、人工妊娠中絶前に施行する検査の種類、人工妊娠中絶を受けられる方に対する支援の実施状況、反復中絶の予防策などについて」アンケート調査を行っています。3,941施設にアンケートを配布し、2,096施設(回答率53.2%)から回答を得ています。この期間に行われた中絶数は36,007件で、、採用されていた方法は掻把(ママ)法4,984件(13.8%)、吸引法22,513件(62.5%)、掻把・吸引併用8,075件(22.4%)、メフィーゴパック435件(1.2%)でした。このうち重篤な合併症は114件(0.317%)生じており、子宮穿孔・子宮破裂7件(0.019%)、輸血を要する大量出血5件(0.014%)、遺残による再手術63件(0.175%)が含まれていました。一方、メフィーゴパック使用例での重篤な合併症は0件だったのです。外科手術をやめれば、重篤な合併症はめったに起こらなくなるのです。
なお、メフィーゴパックの2剤使用後に手術を行ったケースは39件(9.0%)だとされています。海外に比べて、これはかなり高い失敗率ですが、理由の一つは、日本では2剤目服用後24時間までに排出しなければ「失敗」と見なして手術するというプロトコルになっているためです。もしかしたら、もう少し待っていたら自然排出していたかもしれない人も、手術を強制されているのです。
また、海外では、2剤目を1度服用しただけでは胎のう排出が見られない場合には、2剤目のミソプロストールという薬をくりかえし服用することになっています。以前、WHOはくりかえし服用は3回までと制限していましたが、2022年の『中絶ケアガイドライン』ではこの回数の制限を撤廃しました。そのために、薬だけで中絶が完了する率は限りなく100%に近付いていると言われています。
日本では、ミソプロストールは「サイトテック」という商品名で胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療薬としてすでに承認されています。この薬を「適用外使用(添付文書に書かれている効能・効果と用法・用量の範囲外で使用すること)」できないかと厚労省の担当者に問い合わせたところ、サイトテックは「妊婦に禁忌」であるため使えないとの回答を受けました。もちろん、妊婦に禁忌であるのは、胃薬として使った結果、流産が起きてはならないためです。しかし、中絶を完了させるためには、まさにその作用が効能になるのです。
イギリスの産婦人科医に尋ねたところ、サイトテックは安い薬なので、中絶に使うためにわざわざ治験を行って承認を受けようとするメーカーはないとのことでした。イギリスの医師たちは、自己裁量でサイトテックの追加投与を行っているのだそうです。
日本の中絶は自由診療ですから、医師の裁量権は広いはずです。薬での中絶を望んだ人が、薬だけで中絶を完了できるようにしてほしいものです。
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6.「わたしの体は母体じゃない」訴訟 次回公判は 1月29日 ◇◆◇────
次回公判 1月29日(水) 14:00~ @東京地裁・第803号法廷
これまでに提出された訴状・準備書面等は以下でご覧になれます。 https://tinyurl.com/2ba9mgks
前回(11月1日)原告側が提出した準備書面(3)に対して、被告側(国)が回答する回になります。原告の訴状と準備書面(3)は圧巻です。ぜひご覧になってみてください。
原告の想いや訴訟に至った経緯はCall4のサイトでどうぞ:
寄付や応援のコメントもぜひお寄せください!
最新情報は「#わたしの体は母体じゃない」で検索してね。
Youtubeに動画があります。
中絶についてもっと話そう㊴【緊急イベント】「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟-原告・風音さんに聞く「わたしが訴訟を起こした理由(わけ)https://www.youtube.com/watch?v=gKCrFH6YCq4
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7.ボランティア・スタッフ随時募集中!◇◆◇────
RHRリテラシー研究所では、随時ボランティア・スタッフを募集しています!
リプロに関する情報提供やイベント開催などの活動をしています。やりたいことがいっぱいあるのに、全然手が足りていません。関心のある方、意欲のある方、どうか力を貸してください。何か一緒にやりたい方、待ってます!!
お問合せは:rhr.lit.lab@gmail.comホームページは:https://www.rhr-literacy-lab.net/
RHRリテラシー研究所(通称リテ研)について: リテ研は、「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利:略RHR)」の知識と理解(リテラシー)を広める活動を行っている任意団体です。 RHRは元々女性の健康運動から登場してきた概念で、国際社会では1990年代から広く知られるようになりました。最近では、「セクシュアル・ヘルス&ライツ」という概念も加えてSRHRと表記されることもよくありますが、私たちのグループでは「リプロダクション(妊娠や出産)」の機能にまつわる健康と権利に特に注目しています。 RHRは、現在では「個人の人権」の重要な一部であると認識され、国にこの人権を保障する義務が課されていますが、日本では、本来、国が個人に対して保障すべきRHR関連のケア(緊急避妊薬を含む避妊や中絶、安全で尊厳が守られアクセスしやすい妊娠・出産、不妊手術なども含む)の情報と手段がほとんど提供されていません。まずはリプロ関連の知識をつけていきましょう。そのために、今月も「リプロ・ニュース」をみなさまの元にお届け致します。
編集後記
10月25日に珠洲市の復興支援ツアーに参加してきました。ガイドさんも被災者で、3時間以上かけて珠洲のさまざまな現状を案内してもらいました。私は東日本大震災から一年後の石巻市、阪神淡路大震災から一年後の神戸市を訪れた経験があるのですが、どちらも私が訪ねたころには壊れた家屋などのガレキは撤去されていました。
ところが、能登大地震から10ヵ月経った珠洲市は、どちらを向いても潰れた家屋や倉庫、折れた電信柱、地面の液状化で数十センチから1メートルほど突出したマンホールなどが、そのままになっている光景が広がっていました。
困っている国民を放置して衆院選を強行した自公政権、せっかく過半数を割ったというのに、国民民主党の裏切りで政権維持するもよう。人を大切にしない政府は、リプロの権利も無視しています。人権はすべての人が生まれながら与えられているものであり、それを守るのが政府の義務であることを、一人でも多くの国民に知らせていきたいです。(K)
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