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執筆者の写真Kumi Tsukahara

リプロ・ニュース No.5

 

RHRリテラシー研究所 2024.12.30発行

 

────◇◆◇コンテンツ◇◆◇─────

1. 日本国内の中絶薬普及の情報アップデート

2.  条件付きで経口中絶薬第二薬服用後の帰宅が解禁

3.  旧優生保護法被害者の闘いは続く 

4. トランプ政権への懸念と対抗措置

5.  「わたしの体は母体じゃない」訴訟 次回公判は1月29日

6. ボランティア募集中

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1.   日本国内の中絶薬普及の情報アップデート◇◆◇────

 

2023年4月に経口中絶薬が承認されてから1年半以上が経過しましたが、普及は依然として限定的です。ラインファーマ社の「中絶薬について相談できる病院・クリニック」のサイトを調べたところ、2024年12月末現在、全国で該当施設は240施設でした。これは令和5年度の調査で日本産婦人科医会の中井章人氏が調査対象とした全国の母体保護法指定医師が 1 名以上在籍している3,941 施設のわずか6%にとどまっています。また、秋田、奈良、福井、島根、鹿児島の5県には、未だに相談できる病院・クリニックは皆無であり、こうした地方ではアクセスの困難さが問題視されています。また、処方費用が10万–16.5万円と高額で、外科的中絶と変わらないほど経済的負担が大きいことが中絶薬の普及を阻む一因となっています。

 

 

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2.  条件付きで経口中絶薬第二薬服用後の帰宅が解禁◇◆◇────

 

経口中絶薬の処方は原則として入院施設を備えた医療機関に限定されており、これまでは中絶に用いられる二種類の薬のうち、第二薬であるミソプロストール投与後は、胎のう排出が確認されるまで医療施設に留まることが義務付けられていました。しかし、厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長とこども家庭庁生育局母子保健課長の連名による通知によって、一定の条件にあてはまる人は第二薬投与後に自宅に帰ることが許可されました。

〈「ミフェプリストン及びミソプロストール製剤の使用にあたっての留意事項について(依頼)」の一部改正について〉と題されたこの通知によれば、薬を服用する医療機関から半径16キロメートル以内に居住しており、緊急時にすみやかに受診できる人が帰宅の対象になります。ただし、一週間後の再来院と胎のう排出の有無の確認を徹底すること、胎のう排出に至った出血があった場合にはすみやかに再来院すること、再来院がない場合には医療機関から連絡し、再来院を指示することが定められています。

WHOやFIGOでは、オンライン処方と自宅での当人の服用がすでに認められている中絶薬について、厳格な管理を徹底させることは、中絶薬使用者の自律性を阻み、来院の負担を増し、コストも増大させています。また、未だに有床施設しか対象でないことも、この薬を必要とする人のアクセスを阻んでいます。さらに、WHOが推奨するミソプロストールの追加服用プロトコルも導入されておらず、日本での薬のみでの中絶成功率は約93%に留まっています。

専門家の間では価格の見直しや保険適用の必要性が指摘されていますが、具体的な見直しが始まっている兆しは見られません。制度改善を通じて、安全かつ公平な医療アクセスを実現するための議論を加速するには、声を上げ続けていく必要があります。

 

 

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3. 旧優生保護法被害者の闘いは続く◇◆◇────

 

 今年、優生保護法をめぐっては、7月に最高裁判所にて国の賠償責任を認める判決が出され、その後首相らが被害者に謝罪しました。この最高裁判決は、以後の判決に大きな影響を与えています。優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会(優生連)によれば、国・原告団・弁護団・優生連は、優生保護法による被害者の名誉・尊厳の回復、優生思想及び障害者に対する偏見差別の根絶等、優生保護法問題の全面的な解決をめざし、基本合意を結びました。

一連の裁判は、日本社会にとってリプロダクティブ・ライツの重要性を改めて認識させる契機となりました。また、被害者の人権回復と尊厳を守る努力がなされる一方で、自己決定権の重要性を周知し、同様の被害を防ぐための法整備と啓発活動の必要性も浮き彫りになりました。

 国会では「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」が作られ、2025年1月17日に施行されることになりました。優生連では、すべての被害者に国からの謝罪と補償が届くよう、基本合意の実現をめざして「優生保護法問題の全面解決へ~国の謝罪と補償をすべての被害者にとどけよう!~1.14 院内集会院内集会」を開催する予定です。オンラインでも参加できます。詳しくは、以下を参照してください。

 

 

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4.トランプ政権への懸念と対抗措置◇◆◇────

 

 2025年にアメリカでドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲くことになり、国内外でリプロダクティブ・ライツが再び大きな影響を受けると予想されています。第一期政権で導入されたグローバル・ギャグ・ルール(アメリカ政府から資金を受ける団体が中絶に関する情報提供や支援活動を行うことを禁止する政策)が再施行される可能性が高く、これにより国際的なリプロダクティブ・ヘルスケア団体への資金援助が制限される懸念があります。また、アメリカ国内では中絶に関する規制がさらに厳格化され、州ごとに中絶の権利が制限される動きが加速する可能性があります。

第一期トランプ政権の際には、オランダ政府が主導したSheDecidesキャンペーンが展開され、短期間で1億ドル以上の資金を集めました。この国際イニシアティブは、カナダ、スウェーデン、ベルギーなど複数の国の政府や国際家族計画連盟(IPPF)、国連人口基金(UNFPA)などの協力により、グローバル・ギャグ・ルールの影響を緩和する役割を果たしました。

さらに、ウィメンズマーチのような大規模な抗議運動が再び展開される可能性もあります。2017年にワシントンD.C.で開催されたこの講義デモでは、グローバル・ギャグ・ルールを含む女性の権利制限に反対する声が広まり、多くの個人やフェミニスト団体が参加しました。

また、プランド・ペアレントフッドのような大規模なリプロダクティブ・ヘルス団体も、政策の影響を受けやすい地域社会で性教育や中絶に関する啓発活動を強化する可能性があります。これらの団体は、オンラインでの情報提供や地域でのワークショップを通じて、中絶の権利とリプロダクティブ・ヘルスケアの重要性を広めています。

カマラ・ハリス候補は大統領選で敗退したものの、公約として中絶の権利を明確に掲げ、歴代の副大統領の中で初めて中絶クリニックを訪問しました。この行動はアメリカ国民の関心を高め、リプロダクティブ・ライツを巡る議論を活性化させました。その結果、大統領選と同時に中絶の権利を州憲法で固めるための修正案が10州で投票にかけられ、そのうち7州で修正案が可決されました。これは、1973年のロー判決以来最大のプロチョイス側の勝利と言われています

 

 

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5. 「わたしの体は母体じゃない」訴訟 次回公判は 1月29日◇◆◇────

 

 任意の不妊手術を合法化することを求めた「わたしの体は母体じゃない」訴訟は、本年6月12日、8月28日、11月1日と3回の口頭弁論が行われました。次回公判は年明けの1月29日((水) 14:00から@東京地裁・第803号法廷で開かれます。

 これまでに提出された訴状・準備書面等は以下でご覧になれます。

 前回(11月1日)原告側が提出した準備書面(3)に対して、被告側(国)が回答する回になります。原告の訴状と準備書面(3)は圧巻です。ぜひご覧になってみてください。

原告の想いや訴訟に至った経緯はCall4のサイトでどうぞ:

最新情報は「#わたしの体は母体じゃない」で検索してください。Youtubeにも動画があります。 

 

#わたしの体は母体じゃない 訴訟〈第1回期日報告会〉

中絶についてもっと話そう㊴【緊急イベント】「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟-原告・風音さんに聞く「わたしが訴訟を起こした理由(わけ)https://www.youtube.com/watch?v=gKCrFH6YCq4

 

この訴訟は女性のリプロの権利を争う日本で初のものです。ぜひ応援してください。

寄付や応援のコメントもぜひお寄せください! 

 

 

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6.ボランティア・スタッフ随時募集中!◇◆◇────

 

 RHRリテラシー研究所では、随時ボランティア・スタッフを募集しています! 

リプロに関する情報提供やイベント開催などの活動をしています。やりたいことがいっぱいあるのに、全然手が足りていません。関心のある方、意欲のある方、どうか力を貸してください。何か一緒にやりたい方、お待ちしています!!

 

RHRリテラシー研究所(通称リテ研)について

 リテ研は、「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利:略RHR)」の知識と理解(リテラシー)を広める活動を行っている任意団体です。

  RHRは元々女性の健康運動から登場してきた概念で、国際社会では1990年代から広く知られるようになりました。最近では、「セクシュアル・ヘルス&ライツ」という概念も加えてSRHRと表記されることもよくありますが、私たちのグループでは「リプロダクション(妊娠や出産)」の機能にまつわる健康と権利に特に注目しています。

 国際社会では、RHRは今や「個人の人権」の重要な一部であると認識され、この人権を保障する義務は国家に課されています。しかし、日本では、本来、国が個人に対して保障すべきRHRにまつわるヘルスケア(緊急避妊薬を含む避妊や中絶、安全で尊厳が守られアクセスしやすい妊娠・出産、任意の不妊手術など)の情報と手段がほとんど提供されていません。まずはリプロ関連の知識をつけていきましょう。そのために、今月も「リプロ・ニュース」をみなさまの元にお届け致します。

 

 

編集後記

今年は様々な出会いと別れを経験し、いくつか新しいことへのチャレンジも開始しました。すでに晦日というのに、明日の朝は新しい仕事の面接……来年も忙しい一年になりそうです。(K)




 



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