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執筆者の写真Kumi Tsukahara

国連社会権規約委員会一般勧告22     第12条:性と生殖に関する健康に対する権利

更新日:2022年7月26日


国際連合 経済社会理事会(Economic and Social Council)配布:一般

                                 2016年5月2日

                                   原文:英語

(日本弁護士連合会訳をもとに一部改訳)


経済的、社会的及び文化的権利委員会



I. イントロダクション

1. 性と生殖に関する健康に対する権利(the right to sexual and reproductive health)は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の第12条に規定されている「健康を享受する権利」の重要な一部を成すものである[1]。性と生殖に関する健康に対する権利は、他の国際人権文書にも反映されている[2]。人権の枠組みにおける性と生殖に関する健康の問題は、1994年に「国際人口開発会議行動計画」が採択されたことにより、さらに強調された[3]。これ以降、性と生殖に関する健康に対する権利についての国際的・地域的な人権基準及び判例は、大きく発展した。最近では、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に、性と生殖に関する健康の分野において達成すべき目標とターゲットが盛り込まれている[4]

2. 性及び生殖に関する健康のための様々な施設、サービス、物資及び情報へのアクセスは、多くの法的、手続的、慣習的及び社会的な障壁により著しく制限されている。実際に、全世界の数百万人の人々(特に女性と少女)にとって、性と生殖の健康に対する権利を十分に享受することは、依然として遠い目標である。法律上・事実上の排除を深刻化させる複合的・交差的な差別の対象となっている個人や集団(例:レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスの人々[5]、障がい者)による性と生殖に関する健康に対する権利の享受は、さらに制限されている。

3. 本一般勧告は、締約国による規約の実施と、規約に基づく報告義務の遵守を支援するべく作成された。本一般勧告は、主として、すべての個人が性と生殖に関する健康に対する権利を享受できるよう保障する締約国の義務(規約第12条において義務付けられているもの)を扱うものであるが、規約中のその他の条項にも関係する。

4. 当委員会は、すでに、到達可能な最高水準の健康に対する権利(経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約第12条)に関する一般勧告第14 (2000)において、性と生殖に関する健康の問題を部分的に扱った。しかし、この権利に対する深刻な侵害が継続していることを踏まえると、当委員会は、この問題について、個別に意見一般勧告を出すべきであると考える。


II. 背景

5. 性と生殖に関する健康に対する権利には、様々な自由(freedom)と権利(entitlement)が含まれる。上記の自由には、暴力、強制及び差別を受けることなく、自分の身体や、性と生殖に関する健康に関する事項について、自由に責任ある決定及び選択を行う権利が含まれる。また、上記の権利には、妨害を受けることなく、健康に関する様々な施設、物資、サービスおよび情報にアクセスする権利が含まれる(これにより、規約第12条に基づく性と生殖に関する健康に対する権利の十分な享受が、すべての人に保障される。)。

6. 性の健康(sexual health)と生殖の健康(reproductive health)は、互いに区別されるが、同時に、密接に関係している。性の健康は、世界保健機関(WHO)が定義するように、「セクシャリティに関し、身体的、感情的、精神的、そして社会的に良好な状態(well-being)にあること」[6]を意味する。生殖の健康とは、国際人口開発会議行動計画で説明されているように、生殖能力、及び十分な情報に基づく自由かつ責任ある決定に関するものである。これには、個人が、自分の生殖行動に関し、十分な情報に基づき自由に責任ある決定を行うことを可能にするために、生殖の健康に関わる様々な情報、物資、施設及びサービスにアクセスすることも含まれる[7]


基礎的決定要因及び社会的決定要因

7. 当委員会は、一般勧告第14において、到達可能な最高水準の健康に対する権利は、単に疾病・疾患がないことや、予防的、治療的及び緩和的な健康サービスを受ける権利に限られるものではなく、健康の基礎的決定要因(underlying determinants of health)にも及ぶと述べた。これは、性と生殖に関する健康にも当てはまる。性と生殖に関する健康は、性と生殖に関する医療のみならず、性と生殖に関する健康に関する基礎的決定要因にも及ぶ。これには、安全な飲用水、十分な衛生設備、十分な食料・栄養、適切な住居、安全で健康的な労働条件・労働環境、健康に関する教育・情報、並びにあらゆる形態の暴力、拷問、差別及び性と生殖に関する健康に悪影響を与えるその他の人権侵害からの効果的な保護へのアクセスが含まれる。

8. また、性と生殖に関する健康は、WHOが定義する「健康の社会的な決定要因(social determinants of health)」[8]にも強く影響される。どの国でも、性と生殖に関する健康の有り様には、一般的に、ジェンダー、民族的出自、年齢、障がい及びその他の要因に基づく社会的不平等や権力の不平等な配分が反映されている。貧困、所得格差、及び当委員会が明示した根拠に基づく構造的な差別・疎外は、いずれも性と生殖に関する健康の社会的決定要因であり、これは他の様々な権利の享受にも影響を与える[9]。こうした社会的要因(これらは、法律や政策で明示されていることが多い。)の本質は、個人が自分の性と生殖に関する健康について行使しうる選択権を制限する。したがって、締約国は、性と生殖に関する健康に関する権利を実現するため、法律、制度的取決め及び社会的慣行に明白に表れている、個人の性と生殖に関する健康の実効的な享受を阻害する社会的要因に対処しなければならない。


他の人権との相互依存性

9. 性と生殖に関する健康に対する権利を実現するには、締約国が、規約の他の条項に基づく義務を果たすことも必要である。例えば、教育に対する権利(第13条及び第14条)、差別を受けない権利及び男女間の平等に対する権利(第2条第2講及び第3条)も相まって、性と生殖に関する健康に対する権利には、セクシャリティと生殖に関する教育(包括的、非差別的であり、エビデンスに基づいており、科学的に正確であり、かつ年齢に適した教育)を受ける権利が必然的に含まれる[10]。また、性と生殖に関する健康に対する権利は、労働の権利(第6条)、公正かつ良好な労働条件を享受する権利(第7条)、差別を受けない権利及び男女間の平等に対する権利と相まって、労働者(移民労働者や障がいを持った女性など、弱い立場にある労働者を含む。)のための母性保護及び育児休暇が保障された雇用を確保すること、職場でのセクシャル・ハラスメントからの保護を確保すること、さらに妊娠、出産、親であること[11]、性的指向、性自認又はインターセックスであることを理由として差別の禁止を徹底することを国家に要求する。

10. また、性と生殖に関する健康に対する権利は、他の人権と不可分であると同時に、他の人権と相互依存の関係にある。この権利は、生存権等の市民的・政治的権利(これは、個人の身体的・精神的な完全性(integrity)及び自立性の土台を成す。)、人身の自由及び安全、拷問及びその他の残虐、非人道的又は侮辱的な取扱いからの自由、プライバシー及び家庭生活の尊重、並びに差別の禁止及び平等と密接に関連している。例えば、産科救急ケアサービスの不存在や妊娠中絶の拒否は、しばしば妊産婦の死亡及び罹病をもたらすが、これらは、ひいては生存権又は安全に対する権利を侵害するものであり、場合によっては、拷問又は残虐、非人道的もしくは侮辱的な取扱いに該当する可能性もある[12]



III. 性と生殖に関する健康に対する権利の規範内容

A. 性と生殖に関する健康に対する権利の諸要素

11. 性と生殖に関する健康に対する権利は、到達可能な最高水準の身体的及び精神的健康に対する権利の重要な要素である。当委員会の一般勧告第14での考察を踏まえると、性と生殖に関する健康には、相互依存的な以下の4つの本質的要素が含まれる[13]


利用可能性

12. できる限り幅広い性と生殖に関する医療を人々に提供するため、十分な数の機能的な医療施設、医療サービス、医療物資及び医療プログラムの利用が可能であるべきである。これには、性と生殖に関する健康に対する権利を実現する基礎的決定要因を保障する、施設、物資及びサービス(例)安全な飲用水、十分な衛生設備、病院、診療所)の利用可能性を確保することが含まれる。

13. 訓練を受けた医療関係者及び専門職員、並びに性と生殖に関する医療サービスを提供する訓練を受けた医療提供者の利用可能性を確保することは、利用可能性の確保における極めて重要な要素である[14]。また、必須医薬品の入手も可能であるべきである。これには、様々な避妊法(例:コンドーム、緊急避妊、妊娠中絶薬、妊娠中絶後のケア用の医薬品)、並びに性感染症及びHIVの予防・治療用の医薬品(ジェネリック医薬品を含む。)が含まれる[15]

14.イデオロギーに基づく政策又は慣行により、物資及びサービスの利用が不可能であるために(例:良心によるサービス提供の拒絶)、サービスへのアクセスが妨げられることがあってはならない。合理的な地理的範囲内にある公的施設及び私的施設の両方に、こうしたサービスを提供する意思と能力を有する十分な人数の医療提供者が常に待機しているべきである[16]


アクセス可能性

15. すべての個人及び集団が、差別を受けることなく、また障壁に妨げられることなく、性と生殖に関する医療に関連する医療施設、物資、情報及びサービス[17]にアクセスすることができるべきである。当委員会の一般勧告第14で検討されているように、アクセス可能性には、物理的アクセス可能性、経済的アクセス可能性及び情報へのアクセス可能性が含まれる。


物理的アクセス可能性

16. 性と生殖に関する医療に関連する医療施設、物資、情報及びサービスは、これを必要とする人が適時にサービスや情報を受領することができるよう、すべての人にとって、安全に足を運ぶことのできる物理的・地理的範囲で入手することが可能でなければならない。物理的アクセス可能性は、すべての人、特に、不利な状況に置かれ、疎外された集団に属する人(農村部及び僻地に住んでいる人々、障がい者、難民及び国内避難民、無国籍者並びに被拘禁者を含むが、これらに限定されない。)に保障されるべきである。性と生殖に関するサービスを僻地に配置することが不可能な場合は、実質的平等の見地から、こうしたサービスを必要とする人々に、当該サービスにアクセスするための通信手段と移動手段を保障する積極的措置が必要となる。


経済的アクセス可能性

17.性と生殖に関する健康のための公的又は私的なサーアビスは、すべての人に負担可能な金額で提供されなければならない。必須の物品およびサービス(性と生殖に関する健康の基礎的決定要因に関するものを含む。)は、個人や家庭に過度な医療費負担が生じないよう、無償で、または平等の原則に基づいて、提供されなければならない。十分な資力を持たない人々には、健康保険料並びに性と生殖に関する健康についての情報、物資及びサービスを提供する医療施設へのアクセス費用を賄うために必要な支援が与えられるべきである[18]


情報へのアクセス可能性

18. 情報へのアクセス可能性には、性と生殖に関する健康に関する一般的問題についての情報及び意見を求め、入手し、広める権利、及び個人が自らの健康状態に関する具体的情報を得る権利が含まれる。すべての個人及び集団(青少年及び若者を含む。)が、性と生殖に関する健康のあらゆる側面に関し(母体の健康、避妊薬・避妊具、家族計画、性感染症、HIV予防、安全な妊娠中絶及び妊娠中絶後のケア、不妊及び妊孕性に関するオプション並びに生殖器のがんを含む。)、エビデンスに基づいた情報を得る権利を有する。

19. こうした情報は、年齢、ジェンダー、言語能力、教育レベル、障がい、性的指向、性自認及びインターセックスであるか否かといった点を考慮しつつ、個人及びコミュニティのニーズに即した方法で提供しなければならない[19]。情報へのアクセス可能性により、個人の健康データ及び健康情報の取扱いにおいてプライバシー及び秘密性が尊重される権利が害されるべきではない。


受容可能性

20. 性と生殖に関する健康に関連するすべての施設、物資、情報及びサービスは、個人、マイノリティ、民族およびコミュニティの文化を尊重したものでなければならず、かつ、ジェンダー、年齢、障がい、性的多様性及びライフサイクルに応じた需要に配慮したものでなければならない。ただし、これを、特定の集団に合わせた施設、物資、情報及びサービスを当該集団に提供することを拒絶する正当化理由にしてはならない。


21.性と生殖に関する健康に関連する施設、物資、情報及びサービスは、良質のもの(つまり、エビデンスに基づいており、科学的及びイラク的に適切かつ最新のもの)でなければならない。これには、訓練を受け、技術を持つ医療関係者、並びに科学的に認められた有効期限内の医薬品及び設備が必要となる。性と生殖に関する医療サービスの提供において、技術的進歩及び革新(例:妊娠中絶用の医薬品[20]、生殖補助医療、HIV及びエイズ治療の進歩)を取り入れることを怠り、または拒絶すると、治療の質が損なわれてしまう。


B.広く適用される特別なテーマ

差別の禁止及び平等

22. 規則の第2条第2項は、いかなる個人及び集団も、差別を受けるようなことがあってはならず、権利を平等に享受できなければならないと規定している。すべての個人及び集団は、性と生殖に関する健康に関して、同じ範囲、質及び水準の施設、情報、物品およびサービスへのアクセスを平等に享受するべきであり、また、いかなる差別も受けずに、性と生殖に関する健康に対する権利を行使できるべきである。

23. 性と生殖に関する健康の文脈において、「差別の禁止」には、すべての人々(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー及びインターセックスの人々を含む。)が、その性的指向、性自認、及びインターセックスであることを十分に尊重される権利が含まれる。同意している同性成人間の性交渉、または自らの性自認の表明を犯罪とみなすことは、明らかな人権侵害である。同様に、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー及びインターセックスの人々を精神病患者として取り扱うことを義務付ける規制、又はこれらの人々を、いわゆる「治療」により「直す」ことを義務付ける規制も、明らかに、性と生殖に関する健康に対する権利の侵害である。また、締約国は、性別(性と生殖に関する健康に対する権利の侵害を含む。)の原因となるホモフォビア及びトランスフォビアと戦う義務も負う。

24. 差別の禁止及び平等を実現するには、法的平等及び形式的平等のみならず、実質的平等も要求される。実質的平等を実現するには、性と生殖に関する健康について、特定の集団が有する固有のニーズ、及び特定の集団が直面している障壁に対処することが必要となる。特定の集団が性と生殖に関する健康について有するニーズについては、それに合わせた配慮を行うべきである。例えば、障がいのある人々は、他の人々と同じ範囲・質の性と生殖に関する医療サービスだけではなく、障がいのために特に必要なサービスも享受することが可能であるべきである[21]。さらに、障がいを持った人々が、性と生殖に関する医療サービスに平等にアクセスすることができるよう、合理的配慮(reasonable accommodation)を行わなければならない(例:物理的にアクセスしやすい施設、アクセスしやすい形態の情報、意思決定の支援)。また、国家は、疎外化を悪化させないような丁寧かつ品位ある方法で、かかる医療が提供されるよう徹底するべきである。


男女間の平等、及びジェンダーの視点

25. 女性は生殖能力を持つことから、性と生殖に関する健康に対する女性の権利を実現することは、女性の様々な人権を実現する上で、極めて重要である。性と生殖に関する権利に対する女性の権利は、女性の自律、及び自分の人生や健康について有意義な決定を行う女性の権利に不可欠である。男女平等は、女性の健康上のニーズ( これは、男性のニーズとは異なる。)が考慮されること、また、女性のライフサイクルに合わせ、女性に適切なサービスが提供されることを要求する。

26. 女性たちが生涯を通じて構造的な差別及び暴力を経験しているという事実は、性と生殖に関する健康に対する権利における男女平等という概念が包括的に理解される必要があることを示している。規約第2条第2項で保障されている性別に基づく差別の禁止、及び第3条で保障されている女性の平等は、直接的差別のみならず間接的差別も撤廃すること、そして形式的平等と実質的平等の双方を確保することを要求している[22]

27.  一見したところ中立的に見える法律、政策及び慣行では、既存の男女間の不平等及び女性差別が温存される可能性がある。実質的平等を実現するには、法律、政策及び慣行が、性と生殖に関する健康に対する権利の行使に際して女性が受けている既存の不利益を維持するのではなく、むしろ軽減する必要がある。特に、女性に対する性別に基づくステレオタイプ、先入観や期待(女性は男性に劣り、世話役と母親としての役割しか持たないというもの)は、男女の実質的平等(性と生殖に関する健康に対する平等な権利を含む。)の妨げとなるものであり、男性には家長と稼ぎ手という役割しかないという考えと同様に、修正又は排除されなければならない[23]。同時に、事実上の男女平等を促進し、母性を保護するには、暫定的・恒常的な特別措置が必要である[24]

28. 法律上及び事実上、女性の権利と男女平等を実現するには、性と生殖に関する健康の分野における差別的な法律、政策及び慣行を廃止または改正する必要がある。性と生殖に関する健康のための広範なサービス、物品、教育及び情報に対する女性のアクセスを妨げる障壁は、すべて排除される必要がある。妊産婦の死亡率及び罹病率を下げるには、産科救急ケアと熟練助産者(農村部及び僻地を含む。)、そして危険な中絶の阻止が必要である。望まない妊娠と危険な中絶を阻止するには、負担可能な価格の安全かつ効果的な避妊薬・避妊具及び包括的性教育へのアクセスをすべての個人(青少年を含む。)に保障すること、中絶を制限する法律を緩和すること、女性と女子に安全な中絶サービスおよび良質な妊娠中絶後のケア(訓練を受けた医療従事者が提供するものを含む。)へのアクセスを保障すること、並びに女性が自分の性と生殖に関する健康について自律的決定を行う権利の尊重を目的とする法的・政策的措置を国家が講じることが必要となる[25]


交差性(intersectionality)及び複合的差別

30. 特定の集団に属する個人は、性と生殖に関する健康に関して、交差的差別の影響を特に受けている可能性がある。当委員会が明らかにしたように[26]、例えば、貧しい女性、障がい者、移民、先住民族又はその他の少数民族、青少年、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー及びインターセックスの人々、並びにHIV・エイズを抱えて生きる人々の集団(これらに限定されない。)は、複合的差別を受けやすい。人身売買され、性的搾取を受けている女性、少女及び少年は、日常的に暴力、強制及び差別を受けており、その性と生殖に関する健康が危険に晒されている。また、戦闘状態で生活している女性及び女子は、組織的レイプ、性的奴隷、強制妊娠および今日政府忍術等による権利侵害を受ける高度の危険に晒されている[27]。差別の禁止及び実質的平等を保障するための措置は、交差的差別が性と生殖に関する健康の実現にしばしば及ぼしている悪影響を認識し、その克服を目指すものであるべきである。

31. 性と生殖に関する健康へのアクセスを妨げる差別、スティグマ化及びネガティブなステレオタイプを阻止し、排除するための法律、政策及びプログラム(暫定的な特別措置を含む。)が必要である。囚人、難民、無国籍者、肥後希望者及び不法移民も、その拘留又は法律的地位のために一層脆弱であることから、性と生殖に関する情報、物資及び医療へのアクセスを確保する国家の具体的措置を特に必要としている集団である。国家は、個人が、性と生殖に関する健康に対する権利を行使したことを理由に嫌がらせを受けることがないよう徹底しなければならない。また、構造的差別を撤廃するには、伝統的に無視されてきた集団[28]にさらに多くのリソースを投入すること、また、差別を禁止する法律や政策が、公務員当により実際に実施されるよう徹底することも必要となることが多い。

32. 締約国は、性産業分野で働く人々を、あらゆる形態の暴力、強制及び差別から十分に保護するための措置を講じるべきである。締約国は、こうした人々に、性と生殖に関する様々な医療サービスへのアクセスを保障するべきである。


IV.締約国の義務

 A. 一般的な法律的義務

33. 規約第2条第1項に規定されているように、締約国は、性と生殖に関する健康に対する権利の完全な実現を漸進的に達成するため、利用可能な自国のリソースを最大限に用いて、措置を講じなければならない。締約国は、到達可能な最高水準の性と生殖に関する健康に対する権利の完全な実現に向けて、可能な限り迅速かつ効率的に行動しなければならない。これは、完全な目標達成は漸進的かもしれないが、それに向けた措置は、即時に、または合理的短期間のうちに講じられなければならないことを意味する。これらの措置は、あらゆる適切な手段(立法措置及び予算措置を含むが、これらに限定されない。)を用いた、慎重、具体的かつ目標が特定されたものであるべきである。

34. 締約国は、性と生殖に関する健康に対する平等な権利を保障するため、個人及び集団に対する差別を撤廃する即時的な義務を負っている。この義務は、特定の個人及び集団について性と生殖に関する健康に対する権利を実現される能力を失わせ、または阻害している法律及び政策を廃止または改正する義務を国家に貸す。性と生殖に関する健康の十分な享受における自律性、平等権及び差別の禁止を損なう様々な法律、政策及び慣行が存在するのが現状である(例:中絶の犯罪化又は妊娠中絶を制限する法律)。締約国は、すべての個人及び集団が、性と生殖に関する健康のための様々な情報、物品およびおサービスに平等なアクセスを有するよう徹底するべきである(特定の集団が直面している障壁をすべて除去することを含む)。

35. 国家は、すべての個人及び集団が、性と生殖に関する健康を平等に享受することができるようにするために、不平等と差別を永続させる条件を排除し、不平等と差別を永続させる考え方(特に、性差に基づくもの)と戦うために必要な措置を講じなければならない[29]。国家は、健康の社会的決定要因に影響与え、平等な権利行使を妨げている、定着した社会規範(例:性別に基づく役割分担)及び権力構造を認識し、これを是正する措置を講じなければならない。こうした措置は、制限的法律の根底に存在し、性と生殖に関する健康の実現を阻害している、性と生殖に関する差別的ステレオタイプ、固定観念及び規範に対処し、これらを排除するものでなければならない。36. 国家は、特定の集団に対する長年の差別及び定着したステレオタイプを克服し、また差別を永続化させる条件を根絶させるため、必要に応じて暫定的措置特別措置を実施するべきである。国家は、すべての個人及び集団が、実質的平等に基づき性と生殖に関する健康に対する権利を効果的に享受することができるよう徹底することに注力するべきである。

37. 締約国は、規約に基づく義務を遵守するため、利用可能なリソースを最大限に入手したこと(国際支援及び国際協力を通じて提供されたものを含む。)を立証する義務を負う。

38. 後退的な措置は避けるべきであり、かかる措置が講じられた場合、締約国は、かかる措置の必要性を証明する責任を負う[30]。上記は、性と生殖に関する健康に関しても同様に当てはまる。退行的な措置の例には、性と生殖に関する健康に関関わる医薬品を国内の医薬品レジストリから除去すること、性と生殖に関する医療サービスのための公的医療資金を廃止すること、性と生殖に関する健康に関わる陳情、物資及びサービスに障壁を課すこと、性と生殖に関する健康に関わる特定の行為及び意思決定を犯罪とみなす法律を制定すること、民間主体に課された、性と生殖に関する医療サービスにアクセスする個人の権利を尊重する義務に対する国家の監督を弱める法律及び政策の変更を行うことが含まれる。後退的措置が避けられない特別な状況が生じた場合、国家は、当該措置が暫定的なものにとどまるよう徹底し、不利な状況に置かれ、疎外された個人及び集団が、当該措置により過度の影響を受けることがないよう徹底するとともに、かかる措置が差別的な方法で適用されないよう徹底しなければならない。


B. 具体的な法的義務

39. 締約国は、性と生殖に関する健康に対する万人の権利を尊重し、保護し、充足する義務を負う。


尊重義務

40. 尊重義務は、国家に対し、個人が行う性と生殖に関する健康に関対する権利の行使を、直接的にも間接的にも妨害しないことを義務付ける。国家は、何人にも、性と生殖に関する健康へのアクセスを制限または否定してはならない(性と生殖に関する医療サービス及び情報を犯罪とみなす法律による場合を含む。)が、同時に、医療データの秘密性は維持されるべきである。国家は、性と生殖に関する健康に対する権利の行使を妨げる法律を改正しなければならない。かかる法律の例には、妊娠中絶、HIVステータスの非公表、HIVの感染および伝染、同意に基づく成人間の性行為、並びにトランスジェンダーとしての性自認又は性表現を犯罪とみなす法律が含まれる[31]

41. 尊重義務もまた、性と生殖に関する医療サービスへのアクセスに障壁を課す法律や政策を廃止すること、及びその制定を行わないことを国家に義務付ける。これには、第三者の許可要件(例:性と生殖に関する医療サービスおよび情報(妊娠中絶、避妊具・避妊薬を含む。)へのアクセスに、親、配偶者及び司法の許可を要求する要件)、偏ったカウンセリング、並びに離婚、再婚又は妊娠中絶サービスへのアクセスを行うための義務的待機時間、義務的HIV検査、並びに性と生殖に関する特定の医療サービスを公的資金及び海外援助資金から除外することが含まれる。誤情報を流布する行為、及び性と生殖に関する健康についての情報にアクセスする個人の権利に制限を課す行為も、人権尊重義務の違反にあたる。国家及び援助国は、性と生殖に関する健康についての情報の検閲、留保、虚偽表示、またはかかる情報の提供(公衆に対するもの、及び個人に対するものの双方を含む。)の犯罪化を控えなければならない[32]。こうした制約は、情報及びサービスへのアクセスを妨げるうえに、スティグマと差別を助長する可能性がある[33]


保護義務

42. 保護義務は、性と生殖に関する健康に対する権利の享受が第三者により直接的または間接的に妨害されることを防ぐための措置を講じることを国家に義務付ける。保護義務は、身体的及び精神的な完全性(integrity)を害し、又は性と生殖に関する健康に対する権利の十分な享受を損なう第三者の行為(民間の医療施設、保険会社及び製薬会社、並びに健康に関連する物品および装置の製造業者の行為を含む。)を禁止する法律及び政策を整備し、実施することを義務付ける。これには、暴力及び差別的慣行(例:性と生殖に関する医療サービスの提供対象から、特定の個人または集団を排除すること)を禁止することが含まれる。

43. 国家は、民間主体が、医療サービスに事実上又は手続き上の障壁(例:施設の物理的障壁、誤情報の流布、非正規の料金、第三者の許可要件)を課すことを禁止又は阻止しなければならない。医療提供者による良心的拒否が認められる場合、国家は、かかる慣行を適切に規制し、当該慣行により性と生殖に関する医療へのアクセスが妨げられることがないよう徹底するとともに(求められているサービスへの提供が可能であり、かつ、これを提供する意思を有する医療提供者への紹介を義務付けるという方法を含む。)、緊急・救急時のサービス提供が妨げられることがないよう徹底しなければならない[34]

44. 国家は、青少年が、婚姻状況に関らず、かつ両親又は後見人の同意の有無を問わず、プライバシーと秘密が尊重された状態で、性と生殖に関する健康についての適切な情報(家族計画及び避妊具・避妊薬、妊娠初期の危険性、並びに性感染症(HIV/エイズを含む。)の予防及び治療に関する情報を含む。)に十分なアクセスを有するよう徹底する義務を負う[35]


充足義務

45. 充足義務は、性と生殖に関する健康に対する権利を完全に実現するため、適切な立法措置、行政措置、予算措置、司法的措置、促進的措置及びその他の措置を講じることを国家に義務付ける[36]。国家は、すべての個人(不利な状況に置かれ、疎外された集団に属する個人を含む。)が、差別を受けることなく、性と生殖に関する様々な良質な医療に普遍的アクセスを有するよう徹底することを目指すべきである。かかる医療には、母体保護、避妊に関する情報及びサービス、安全な妊娠中絶のケア、並びに不妊、生殖器のがん、性感染症及びHIV/エイズの予防、診断及び治療(ジェネリック医薬品を使用するものを含む。)が含まれる。締約国は、あらゆる状況で行われた性的暴行及び家庭内暴力の被害者に、身体的・精神的な医療を保障しなければならない(暴露後予防、緊急避妊及び安全な妊娠中絶サービスへのアクセスを含む。)。

46. また、充足義務は、性と生殖に関する健康に対する権利の完全な実現を妨げる事実上の障壁(例:過度な費用負担、性と生殖に関する医療への物理的・地理的アクセスの欠如)を根絶するための措置を講じることを国家に義務付ける。国家は、医療提供者が、性と生殖に関する良質かつ丁寧な医療サービスを行う訓練を十分に受けるよう徹底しなければならず、また、そのような医療提供者が自国内に均等に分配されるよう徹底しなければならない。

47. 国家は、性と生殖に関する医療サービスの提供と供給に関し、エビデンスに基づく基準及びガイダンスを作成し、実施しなければならない。また、このガイダンスは、医学の進歩を反映させるため、日常的に更新しなければならない。同時に、国家は、性と生殖に関する健康についての教育(年齢相応であり、エビデンスに基づく、科学的に正確な包括的教育)をすべての人に提供する義務を負う[37]

48. また、国家は、様々な年齢やジェンダーの個人、女性、女子及び青少年が性と生殖に関する権利を自律的に行使することを、規範又は信条の点において妨げている社会的障壁を根絶するために、積極的改善措置もとらなければならない。月経、妊娠、出産、自慰、夢精、パイプカット及び妊孕性に関する社会的誤解、偏見及びタブーは、個人の性と生殖に関する健康に対する権利の享受を妨げることがないよう、改められるべきである。


C. 中核的義務


49. 締約国は、少なくとも、性と生殖に関する健康に関する権利について、必要最低レベルの充足を確保する中核的義務を負う。これに関して、締約国は、近時の人権文書及び判例[38]、並びに国連機関(特に、WHO及び国連人口基金(UNFPA))が制定した最新の国際的ガイドライン及びプロトコル[39]の指針に従うべきである。この中核的義務には、少なくとも、以下が含まれる。

(a) 個人又は特定の集団による性と生殖に関する健康のための施設、サービス、物資及び情報へのアクセスを犯罪とみなし、妨害し、又は害する法律、政策及び慣行を廃止し、又は撤廃すること。

(b) 十分に予算配分された、性と生殖に関する健康に関する国家戦略及び行動計画を採用し、実施すること。これらは、透明性のある参加型の手続きを経て考案され、定期的に見直し及び監視を受け、かつ差別的禁止事由を個別的に示したものでなければならない。

(c) 性と生殖に関する健康のためのサービス、物品および施設(手ごろな値段で、許容可能かつ良質なもの)に対する普遍的及び平等なアクセスを、特に、女性及び不利な状況に置かれ、疎外された集団に保障すること。

(d) 性と生殖に関する個人のニーズと行動に関し、プライバシー、秘密保持、及び情報に基づいた、責任のある自由な意思決定(強制、差別又は暴力をうけるおそれのない意思決定)を確保すると同時に、悪しき慣行及び性差に基づく暴力(女性器切除、子どもの結婚、強制結婚、家庭内暴力、性的暴力(特に、婚姻内強姦を含む。)を禁止する法律を制定し、実施すること。

(e) 危険な妊娠中絶を阻止するための措置、並びに妊娠中絶後のケア及びカウンセリングを、それを必要とする女性に提供するための措置を講じること。

(f) すべての個人及び集団が、性と生殖に関する健康についての包括的教育及び情報(無差別で、偏見がなく、エビデンスに基づいており、子も及び青少年の能力の発達を考慮したもの)へのアクセスを有するよう徹底すること。

(g) 性と生殖に関する健康に必要不可欠な医薬品、設備及び技術を提供すること(WHOの「必須医薬品モデルリスト」に基づく提供を含む[40]。)

(h) 性と生殖に関する健康に対する権利の侵害に対し、効果的で透明性のある是正措置及び救済策(行政上及び司法上のものを含む。)へのアクセスを確保すること。


D. 国際的義務


50. 国際的な協力及び支援は、規約第2条第1項の重要な要素であり、性と生殖に関する健康に対する権利の実現に不可欠なものである。リソースの不足により自国の義務を順守することができず、性と生殖に関する健康に対する権利を実現することができない国家は、規約第2条第1項に従い、国際的な協力およびお支援を求めなければならない。これに応じるべき立場にある国家は、少なくとも国民総所得の0.7%を国際的協力及び支援のために拠出するとする国際的コミットメントに従い、かかる要請に誠実に応じなければならない。

51. 締約国は、規約に基づく自国の義務に従い、知的財産又は貿易・経済交流に関する双務的、地域的及び国際的な取決めにより、HIV/エイズ、又は性と生殖に関する健康にかかくぁるその他の病気の予防又は治療に必要な医薬品、診断法又はkろえらに関連する技術へのアクセスが妨げられることがないよう徹底するべきである。国家は、万人の医薬品及び医療へのアクセスを促進・確保するために活用しうる保護手段及び柔軟性が、国際的取決め予備国内法に最大限含まれるよう徹底するべきである。締約国は、自国の国際的取決め(取引及び投資に関連する取決めを含む。)の見直しを行い、これらが性と生殖に関する健康に対する権利の保護と整合的であることを確認するとともに、必要に応じてこれらの改定を行うべきである。

52. 援助国及び国際的行為主体は、人権基準(これらh、性と生殖に関する健康にも適用される。)を順守する義務を負う。これを順守するため、国際支援は、援助国に存在する情報若しくはサービスに制限を課すこと、訓練を受けた生殖に関する医療従事者を被援助国から引き離すこと、又は被援助国に民営化モデルの採用を強要することがないようにするべきである。また、援助国は、被援助国に存在する、性と生殖に関する健康の十分な享受を妨げている法的、手続き的、慣習的又は社会的な障壁を強化し、又は容認することがないようにするべきである。

53. 政府間組織、また、特に国際連合並びにその専門機関、プログラム及び書記官には、性と生殖に関する健康に対する権利の普遍的実現に関して果たすべき重要な役割及び貢献がある。世界保健機関(WHO)、国連人口基金(UNFPA)、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(UN-Women)、国際連合人権項津男弁務官事務所(OHCHR)及びその他の国連機関は、専門的なガイダンス及び情報、並びに能力構築及び能力強化を提供している。これらの機関は、個々の機関の権限を尊重し、市民社会とも協力しながら、性と生殖に関する健康に対する権利の国レベルでの充足に関して各締約国が有する専門的知見に基づき、締約国と効果的に協力するべきである[41]


V. 違反

54. 性と生殖に関する健康に対する権利の侵害は、国家又は国家の規制が不十分なその他の主体による直接的行為により生じる可能性がある。作為による違反には、国家内若しくは第産国に、性と生殖に関する健康に対する権利の実現への障壁を生じさせる法律、規制、政策若しくはプログラムを採択すること、又は性と生殖に関する健康に対する権利の継続的享受に必要な法律、規制、政党若しくはプログラムを廃止又は停止することが含まれる。

55. 不作為による違反には、性と生殖に関する健康に対する万人の権利を完全に実現するための適切な措置を講じないこと、また、これに関連する法律の制定及び実施を行わないことが含まれる。性と生殖に関する健康に対する権利の享受における形式的平等及び実質的平等の確保を怠った場合は、上記権利の侵害に該当する。性と生殖に関する健康に対する権利の平等な享受には、法律上及び事実上の差別を撤廃することが必要である[42]

56. 国家が、法律、政策又は行為を通じて、性と生殖に関する健康に対する権利を損なった場合は、尊重義務への違反に該当する。かかる違反には、個人が自分の身体をコントロールする自由、及びこれに関して十分な情報に基づく自由かつ責任ある決定を行う能力を妨げることも含まれる。また、国家が、性と生殖に関する健康に対する権利の享受に必要な法律及び政策を廃止または停止した場合も、尊重義務違反に該当する。

57. 尊重義務違反の例には、個人による性と生殖に関する医療サービスへのアクセスを妨げる法的障壁を設けることが含まれる(例:女性の妊娠中絶の犯罪化、同意している同性成人間の性交渉の犯罪化)。性と生殖に関する医療サービスおよび医薬品(例:緊急避妊)へのアクセスを事実上禁止又は否定することも、尊重義務違反となる。非任意又は強制的な医療行為を定める法律及び政策強制(強制不妊術、又は義務的なHIV/エイズ検査、処女検査若しくは妊娠検査を含む。)も、尊重義務への違反にあたる。

58. さらに、強制的な医療行為を間接的に永続化させる法律及び政策(インセンティブ又はノルマに基づく避妊政策やホルモン療法、及び個人の性自認を法的に承認する条件として、手術又は不妊術を要求することを含む。)も、尊重義務違反に該当する。また、性と生殖に関する健康について、情報を検閲し、もしくは情報の提供を差し控えること、又は不正確、虚偽若しくは差別的な情報を提示する国の刊行又は政策も違反に含まれる。

59. 第三者が、性と生殖に関する健康に対する健康の享受を妨げることを阻止するために、効果的な措置を国家が講じなかった場合は、保護義務への違反に該当する。これには、私人及び民間主体によるあらゆる形態の暴力及び強制(家庭内暴力、強姦(婚姻内強姦を含む。)、性的暴行、性的虐待及びセクシャル・ハラスメント(紛争中、紛争後及び移行期の間に行われるものを含む。)、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー及びインターセックスの人々又は妊娠中絶若しくは妊娠中絶後のケアを求める女性を標的にした暴力、悪しき慣行(例:女性器切除、子どもの結婚、強制結婚、強制不妊術、強制的妊娠中絶、強制妊娠)、並びにインターセックスの幼児又は子供に対して、当人の同意に基づかずに行われる、医学的に不要かつ不可逆的な手術及び治療を含む。)を禁止・阻止しないことが含まれる。

60. 国家は、特定のセクター(例:民間の医療提供者、健康保険会社、教育機関及び保育施設、収容介護施設、難民キャンプ、刑務所、その他の収容施設)が、個人による性と生殖に関する健康に対する権利の享受を損ない、又は侵害していないことを確認するために、これらを効果的に関し・管理しなければならない。国家は、民間の健康保険会社が、性と生殖に関する医療サービスを保険の適用対象とすることを拒否しないよう徹底する義務を負う。さらに、国家は、多国籍企業(例:グローバルに営業している製薬会社)が、同意によらない避妊薬のテストや医学的実験等により、他国の人々の性と生殖に関する健康に対する権利を侵害することがないよう徹底する域外的義務(extraterritorial obligation)を負う[43]

61. 国家が、自国が有する利用可能な最大限のリソースの範囲内で、性と生殖に関する健康に対する権利の促進、増進及び提供に必要なすべての措置を講じなかった場合は、充足義務への違反に該当する。かかる違反は、国家が、性と生殖に関する健康を十分かつ包括的に含む国家医療政策を採用・実施しなかった場合、又は政策が、不利な状況に置かれ、疎外された集団のニーズに対応していない場合に生じる。

62. 充足義務違反は、国家が、性と生殖に関する健康のための施設、物資及びサービスの利用可能性、アクセス可能性、許容可能性及び質を斬新的に確保することを怠った場合にも生じる。かかる違反の例には、すべての個人が具体的状況及びニーズに合致した適切な方法を利用できるよう、様々な避妊の選択肢へのアクセスを保障しなかった場合が含まれる。

63. さらに、充足義務違反は、国家が性と生殖に関する健康に対する享受を妨げている、法的、手続き的、慣行的及び社会的障壁を根絶するため積極的改善措置、並びに医療提供者が、性と生殖に関する医療を求めるすべての個人を、丁寧かつ非差別的な方法で扱うよう徹底するための積極的改善措置を講じなかった場合も、充足義務違反に該当する。また、国家が、性と生殖に関する健康について、最新かつ正確な情報が公表され、かつ、すべての個人にとって適切な言語及び形式で入手可能であるよう徹底するための措置、並びにすべての教育機関が、その必修のカリキュラムに性教育(偏見がなく、科学的に正確であり、エビデンスに基づいた、年齢に適した包括的なもの)を組み込むよう徹底する措置を講じなかった場合も、充足義務違反に該当する。


VI. 救済手段

64. 国家は、すべての個人に対し、性と生殖に関する健康に対する権利が侵害された場合における司法及び優位かつ効果的な救済へのアクセスを保障しなければならない。救済には、適切、効果的かつ迅速な補償(適宜、原状回復、損害賠償、名誉回復、履行及び再発防止の保障の形による。)が含まれるが、これらに限定されない。救済を求める権利を効果的に行使するには、司法へのアクセス、及び上記のような救済手段が存在することに関する情報へのアクセスのために資金を供給することが必要である。また、性と性移植に関する健康に対する権利が、法律及び政策に規定され、国家レベルでの司法判断に適した状態となっていること、また、これらの権利が強制可能であることを裁判官、検察官及び弁護士が認識していることも重要である。第三者が性と生殖に関する健康に対する権利を侵害した場合、国家は、かかる侵害の捜査及び訴追が行われるよう徹底するとともに、かかる侵害の被害者が救済を受け、加害者が責任を負うよう徹底しなければならない。


参照文献 [1] 到達可能な最高水準の健康に対する権利に関する経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14(2000)の第2、第8、第11、第16、第21、第23、第34及び第36パラグラフを参照。 [2] 「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」第12条、「児童の権利に関する条約」第17条、第23~25及び第27条、「障がい者の権利に関する条約」第23条及び第25条を参照。また、女性と健康に関する女性差別撤廃委員会の一般勧告第24号(1999)の第11、第14、第18、第23、第26、第29及び第31(b)パラグラフ、到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利に関する子どもの権利委員会の一般勧告第15(2013)を参照。 [3] 1994年9月5日~13日にカイロで開催された国際人口開発会議の報告書(国連出版物、Sales No. E.95.XIII.18)の第1章、決議1、付録。この行動計画は、15の原則を基礎としている。第1原則は、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利において平等である」と述べている。 [4] 2015年9月に国連総会で採択された、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」。2030アジェンダの目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」、目標5は「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と少女のエンパワーメントを図る」である。 [5] 本一般意見において、「レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー及びインターセックスの人々」には、性的指向、性自認及び性徴(実際のものであるか、周囲に認識されているものであるかを問わない。)に基づく権利侵害に直面している上記以外の人々(上記以外の用語でアイデンティファイしうる人々を含む。)が含まれる。インターセックスの人々については、https://www.unfe.org/wp-content/uploads/2017/05/UNFE-Intersex.pdfで入手可能なファクトシートを参照。 [6] WHOの「性の健康、人権及び法(Sexual Health, Human Rights and the Law)」(2015)のセクション1.1、性の健康についての実用的定義を参照。 [7] 「国際人口開発会議行動計画」の第7章を参照。 [8] WHO健康の社会的決定要因に関する委員会、「一世代のうちに格差をなくそう:健康の社会的決定要因に対する取り組みを通じた健康の公平性―健康の社会的決定要因に関する委員会の最終報告書」(2008)。 [9] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の経済的、社会的及び文化的権利における無差別性に関する一般勧告第20(2000)を参照。 [10] A/65/162。 [11] 「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」第11条第1項(f)、及び第11条第2項を参照。 [12] 自由権規約委員会通報No.1153/2003、Karen Noelia Llanotoy Huamán v. Peru(2005年10月24日に主張認容)、女性差別鉄扉委員会通報No.17/2008, Alyne da Silva Pimentel v. Brazil(2011年7月25日に主張認容)、CAT/C/SLV/CO/2の第23パラグラフ、及びCAT/C/NIC/CO/1の第16パラグラフを参照。 [13] 当委員会は、一般勧告第14の第12段落において、健康に対する権利を保障する国家の義務の規範要素を明らかにした。これらの基準は、健康の基礎的決定要因又は前提条件(セクシャリティに関する教育、及び性と生殖に関する健康についての情報へのアクセスを含む。)にも当てはまる。子供の権利委員会の一般勧告第15も参照(上記規範を青年期の若者にも適用した。)。締約国は、すべての青少年の具体的ニーズ及び人権に配慮した医療サービスを提供するべきである。 [14] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14の第12パラグラフ(a)、A/HRC/21/22及び正誤表①及び2の第20パラグラフを参照。 [15] WHOは、必須医薬品を、「人々の優先度の高い医療ニーズを満たす」ものであり、「医療システムが機能している状況において、常に十分な量、適切な錠形、安全な品質で、個人及び地域社会に手の届く価格で入手可能であるべき医薬品」と定義している。経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14、及びWHOの「必須医薬品モデルリスト」第19版(2015)を参照。 [16] 国際家族計画連盟-European Network v. Italy(申立書No.87/2012(2014))。2014年4月30日に欧州委員会の閣僚協議会により決議が採択された。 [17] 本書において、医療施設、物品およびサービスという場合は、基礎的決定要因が含まれる。 [18] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14、第19パラグラフを参照。 [19] 欧州評議会人権コミッショナー「人権とインターセックスの人々」、発刊物(2015)。 [20] WHOの「安全な中絶:医療保険システムのための技術及び政策の手引き」第2版(2012)を参照。 [21] 「障がい者の権利に関する条約」第25条を参照。 [22] 経済的、社会的及び文化的権利委員会による、あらゆる経済的、社会的及び文化的権利の共有に対する男女平等の権利に関する一般勧告第16(2005)。 [23] 「女性に対する荒湯形態の差別の撤廃に関する条約」の第5条を参照。 [24] 「女性に対する荒湯形態の差別の撤廃に関する条約」の第4条第1項は、「男女の事実上の平等を促進することを木t期とする暫定的な特別措置」に関るものであり、他方、第4条第2項は、「母性を保護することを目的とする特別措置」に着目している。経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第16の第15パラグラフも参照。 [25] A/69/62。WHOの「安全な中絶:医療保険システムのための技術及び政策の手引き」第2版(2012)も参照。 [26] 人種、肌の色、性別、言語、宗教、政治的またはその他の意見、出身国又は社会的出自、財産、出生又はその他の地位(民族、年齢、国籍、婚姻及び家族の状況、障がい、性的指向及び性自認、インターセックスであること、健康状態、居住地、経済的・社会的状況又はその他の状況を含む。)による差別を受けている集団、及び複合的形態の差別を受けている集団を含む。経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第20を参照。 [27] 「1993年ウィーン宣言及び行動計画」(A/CONF.157/23)の第38パラグラフ、及び「1995年北京宣言及び行動綱領」(A/CONF.177/20)の第135パラグラフを参照。 [28] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第20の第39パラグラフを参照。 [29] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第16の第6~9パラグラフを参照。 [30] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14の第32パラグラフを参照。 [31] 例として、E/C.12/1/Add.105及び正誤表1,第53パラグラフ、女性差別撤廃委員会による一般勧告第24、第24及び第31(c)パラグラフ、A/66/254並びにA/HRC/14/20を参照。 [32] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14、及び子どもの権利委員会による、子どもの権利以上薬の文脈における思春期の健康と発達に関する一般勧告第4(2003)。 [33] アムネスティ・インターナショナル「選択肢がない:インドネシアにおける生殖に関する健康への障壁」(2010) [34] E/C.12/POL/CO/5の第28パラグラフ、A/66/254の第24及び第65(m)パラグラフ、並びに女性差別撤廃委員会による一般勧告第24の第11パラグラフを参照。 [35] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第4(訳注:14の誤記と思われる。)の第28及び第33パラグラフを参照。 [36] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14の第33、第36~37パラグラフを参照。 [37] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14、女性差別撤廃委員会による紛争予防・紛争中・紛争後の状況における女性に関する一般勧告第30の第52(c)パラグラフ、並びに子供の権利委員会の一般勧告第15の第60パラグラフを参照。 [38] 例えば、www.icpdbeyond2014.org、女性差別撤廃委員会の通報No.17/2008及びNo.22/2009L.C.v.Peru(2011年10月17日に主張認容)、並びに子供の権利委員会及び女性差別撤廃委員会の一般勧告及び勧告を参照。 [39] 例えば、Inter-agency Working Group on Reproductive Health in Crisesによる「人道支援時の生殖の健康に関する機関間現場マニュアル」(www.who.int/reproductivehealth/publications/emergencies/field_manual_rh_humanitarian_settings.pdf)、及びUNFPAによる性と生殖に関する健康についての発刊物(www.unfpa.org/sexual-reproductive-health)を参照。 [40] WHO「必須医薬品モデルリスト」の第18.3セクションを参照。 [41] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第14の第63~65パラグラフを参照。 [42] 経済的、社会的及び文化的権利委員会の一般勧告第16の第41パラグラフを参照。 [43] 経済的、社会的及び文化的権利の分野における域外的義務に関するマーストリヒト原則。




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